福岡地方裁判所 昭和41年(行ウ)2号 判決 1974年3月30日
原告 株式会社モードふくせん
被告 小倉税務署長
訴訟代理人 麻田正勝 外六名
主文
一 被告が原告に対し昭和四〇年二月二六日付をもつてなした原告の昭和三七年九月一日から昭和三八年八月一三日までの事業年度についての更正処分のうち、所得金額につき別表(一)記載の方法で算出した金額(差引所得金額)を超える部分、法人税額につき右差引所得金額を所得金額としで算定した税額を超える部分並びに過少申告加算税賦課決定処分のうち右税額の超過部分に相当する部分、はいずれもこれを取消す。
二 被告が原告に対し昭和四〇年二月二六日付をもつてなした原告の昭和三八年九月一日から昭和三九年八月三一日までの事業年度についての更正処分のうち、所得金額につき別表(二)記載の方法で算出した金額(差引所得金額)を超える部分、法人税額につき右差引所得金額を所得金額として算定した税額を超える部分並びに過少申告加算税賦課決定処分のうち右税額の超過部分に相当する部分、はいずれもこれを取消す。
三 原告のその余の請求を棄却する。
四 訴訟費用は被告の負担とする。
事実
第一当事者の求める裁判
一 原告
1 被告が原告に対し昭和四〇年二月二六日付をもつてなした原告の昭和三七年九月一日から昭和三八年八月三一日までの事業年度分および昭和三八年九月一日から昭和三九年八月三一日までの事業年度分の法人税についての各更正処分および各過少申告加算税賦課決定処分をいずれも取り消す。
2 訴訟費用は、被告の負担とする。
二 被告
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は、原告の負担とする。
第二当事者の主張
一 原告の請求原因
1 原告は、繊維製品および雑貨(主として既製婦人服)の販売業およびこれに附帯する一切の事業を目的とする会社である。
2 ところで、原告(当時の商号は「株式会社洋服のふくせん」)は、被告に対し、昭和三八年一〇月三一日には、昭和三七年九月一日から昭和三八年八月三一日までの事業年度分(以下「第一事業年度分」という。)の法人税につき、所得金額を三〇万二、〇二一円の欠損とする確定申告書を、昭和三九年一〇月三一日には、昭和三八年九月一日から昭和三九年八月三一日までの事業年度分(以下「第二事業年度分」という。)の法人税につき、所得金額を九、三六八円、法人税額を三、〇六〇円とする確定申告書をそれぞれ提出したところ、被告は、昭和四〇年二月二六日付をもつて、第一事業年度分の法人税につき、所得金額童二八万九、三四六円、法人税額を七三万一、九三四円とし、第二事業年度分の法人税につき、所得金額を一五一万五、九八八円、法人税額を五〇万二四〇円とする各更正処分および第一事業年度分につき、三万六、五五〇円、第二事業年度分につき、二万四、八五〇円の各過少申告加算税賦課決定処分をした。
3 そこで、原告は、右各処分を不服として、同年三月二五日、被告に対し、異議申立てをしたが、同年五月一八日付をもつて、被告からこれを棄却する旨決定されたので、同年六月一八日、福岡国税局長に対し、審査請求をしたところ、同局長は、同年一二月一六日付をもつてこれを棄却する旨の裁決をし、同月二四日、原告にその通知をした。
4 しかしながら、右各更正処分および各過少申告加算税賦課決定処分は、いずれも違法である。
5 よつて、原告は右各更正処分および右各過少申告加算税賦課決定処分の取消しを求める。
二 被告の答弁
1 原告の請求原因1ないし3の各事実はいずれも認める。
2 同4の主張は争う。
三 被告の抗弁
1 原告の第一事業年度分および第二事業年度分の各法人税についての確定申告の内容およびこれに対する被告の各更正処分ならびに各過少申告加算税賦課処分の内容は、別表(三)、(四)各記載のとおりである。
2 以下右のごとく更正した理由について詳述する。
(一) 推計課税の必要性
原告の申告に基づき被告が調査をしたところ、原告の経理状況は、次のとおりであつた。
第一事業年度については別表(五)ないし(七)<省略>記載のとおり元帳、および各勘定科目の補助簿の記帳は断片的で、元帳と補助帳簿の期末残高に差異があり、調査の結果も各勘定科目について申告額と調査額との間に大差が認められ、いずれが真実か判定しがたい状態で、このような帳簿を全面的に信用するわけにはいかなかつた。そして第二事業年度についても、別表(八)ないし(一〇)<省略>記載のとおり各勘定科目の期末残高について元帳と補助簿が一致せず、さらに元張と決算書も不突合で正確な決算は望めない状態にあつた。このため法人税確定申告書には貸借対照表が添付されておらず、所得金額が欠損にならない程度の額で損益計算書のみが添付されていた。なお、原告はその後に至つて修正申告と表示した決算書類を提出したが、確定申告には課税所得があるところ、この修正申告書の所得金額は欠損であり、法人税法上の修正申告とはならないので、推計課税にあたつての参考資料とした。
また売上、仕入等、営業活動についての原始記録である日計表も信用できないのであつて、該日計表が正確に記録されておれば補助簿への転記も正しくなされるはずであり、前記のような諸帳簿の不突合は考えられないのであつて、被告係官が日計表を部分的に検討した結果からもその記載は断片的で不一致の点があり、信頼し難いと認められたものである。
以上のように原告の帳簿書類、日計表等には不備な点が多く、その記載内容は信頼することができず、右帳簿書類、日計表等によつては、とうてい所得金額を正確に計算することは不可能な状態にあつたので、昭和四〇年法律第三四号による改正前の法人税法(以下「旧法人税法」という。)第三一条第二項に基づいて推計課税の方法により売上高を推計計算して所得金額の算定をすることにした。
(二) 被告のなした更正処分
(1) 第一事業年度分
<1> 売上高の推計計算について
売上原価を算出して、同業種法人の売上原価率により売上高を逆算した。すなわち、原告の仕入先に照会して確認された仕入金額一、一〇一万二、七五六円と、それ以外の確認できなかつた仕入先については原告の補助簿より集計された仕入金額一、二七三万四、〇七一円を採用することとし、その合,計額二、三七四万六、八二七円に期首棚卸金額六五五万二、七〇三円を加算し、期末棚卸金額二〇六万二、五三〇円を減算することによつて、売上原価二、八二三万六、九九九円を算出し、これを原告と同市内にある同業種法人の平均売上原価率六五・七パーセント(売買差益率三四・三パーセント)で除して売上高四、二九七万八、六九〇円を算出したものである。
売上原価 原価率 売上高
28,236,999÷(1-0.343)= 42,978,690円
なお、被告が右同業種法人として選定したのは、株式会社小倉ロビン、合名会社近藤洋品百貨店および株式会社近藤百貨店であるが、これらの法人は、業態、営業規模において原告と若干の格差は認められるが、地域的にはかえつて原告に有利な法人が選定されているのであつて、全般の状況から判断すればなんち不合理な点はない。
<2> 申告調整について<省略>
<3> 営業外費用について
原告の申告にかかる現金不足四、三五四円については、不足の理由が明確にされないので否認した。
(2) 第二事業年度分
<1> 売上高の推計計算について
第一事業年度分と同様の方法により算出した。すなわち、仕入先照会により確認された仕入金額一、六七八万五、九二一円と、照会しても判明しなかつた仕入金額一、〇一二万六、五四八円との合計額二六九一万二、四六九円に期首棚卸金額二〇六万二、五三〇円を加算し、期末棚卸金額四九八万四、八〇二円を減算することによつて、売上原価二、三九九万一九七円を算出し、これを第一事業年度分と同じ同業種法人の売上原価率六四・三パーセントで除して売上高三、七三〇万九、七九〇円を算出した。
売上原価 原価率 売上高
23,990,197÷0.643 = 37,309,790円
<2> 一般管理費、販売費について
(イ) 原告の申告にかかる給料手当のうち、監査役山中啓勝に支給した報酬一二万円は、その職務内容から判断して高額にすぎると認められたので、旧法人税法施行規則第一〇条の三の規定に基づいてそのうち九万円につき損金算入を否認した。
(ロ) 賞与のうち役員伊藤菊枝に支給した賞与六万五、〇〇〇円を否認した。けだし、伊藤菊枝は同族会社たる原告会社の代表者伊藤隆祥の妻であつて旧法人税法施行規則第一〇条の三第六項第四号の規定に該当する役員(原告が同族会社であるかどうかを判定する場合に、その判定の基礎となる株主である原告代表者伊藤隆祥の同族関係者)であるため、使用人としての職務を有する役員とはならないから、同施行規則第一〇条の四に基づいて損金算入を否認したものである。
(ハ) 租税公課については、原告は、審査請求において被告の更正処分額一二万二、〇八五円を認めていた。
<3> 営業外収益について
原告は、同族会社であるところ、第二事業年度において、原告代表者伊藤隆祥が経営している株式会社ふくせんに対し無利息で金員を貸付けているが、法人が純経済人として合理的に行動したとすれば、無利息で貸付けをするというような行為は考えられないのであつて、かかる行為を容認した場合においては法人税の負担を不当に減少させる結果となるので、被告は、旧法人税法第三〇条の規定に基づいて、通常の場合における利率(年一割)により右貸付金の利息を四八万九、三四一円と認定した。
<4> 営業外費用について
原告の申告にかかる固定資産売却損七万五、八七二円については、帳簿書類が不備なため、その内容が明確でなく、被告係官がその点について原告に説明を求めたが、合理的な説明がなされなかつたのでこれを否認した。
四 原告の反対主張
1 被告の抗弁1の事実は認める。
2(一) 同2の(一)のうち、被告が推計課税をした事実は認めるが、その前提となる事実は否認し、推計課税が許されるとの主張は争う。
すなわち、推計課税が許されるのは、税務当局が納税義務者の所得実額を調査しても計算することができない場合に限られ、たんに帳簿がないとか、帳簿の記入が不正確であるということだけで、直ちに推計課税をなすことは違法であつて許されない。納税義務者が信頼できる帳簿を備えておらず、かつ、税務当局の調査に対して非協力的で、その所持にかかる資料などの提供を拒むなどのため、実額調査の手がかりが得られない場合においてはじめて推計課税が許容されるのである。
本件においては、原告は売上、仕入等、日々の営業活動を記録した日計表のほか、帳簿、伝票類も備えていたのであり、右日計表によつて売上高、仕入高等の実額が容易に把握できたにもかかわらず、被告係官は、とくに原告の整備された日計表についてはこれをろくに調査しておらず、また、原告は同係官に対し、右日計表、帳簿伝票等すべての資料を提供し、取引先に対しても同係官から命ぜられるままに電話あるいは文書による照会をしその結果はすべて同係官に提供して調査に協力したものである。
もつとも、右日計表のうち、昭和三八年九月分等、現在見当らないものがあるが、被告係官、国税局協議団係官らの調査の際には備えていたのであり、前記のとおりこれを呈示している。
従つて被告係官らは、日計表等を資料として売上高の実額を算定できたはずであり、この方法によらずに直ちに推計の方法で売上高を算出した本件更正処分には違法の瑕疵があり、取消されるべきものである。
(二) 同2の(二)の第一、第二事業年度の売上高の計算についての推計の方法は誤りである。
すなわち、実務上の推計方法には、(1) 資産増減法、(2) 比率法、(3) 単位当り額法、(4) 消費高法があるが、これらは納税義務者の資料に依存することができない場合に、実額近似の額を推算する技術方式にほかならないから、具体的事例に即して最も合理的、客観的と認められる方式を選び、推計の基礎たる数値の正確度を慎重に吟味し、さらに、一般的推計技術方式において考慮されていない不確定要素をも勘案して推計結果の修正を行い、実額近似性の実現に努むべきであるところ、本件推計方法は、通常行われる右(1) ないし(3) の推計技術の方法に違反している。とくに被告は、右(3) の方法として被告主張の三店を原告と同種同規模等であるとして選定したというが、被告係官が果して右三店と原告とを比較して推計したか疑問であるのみならず、右三店の決算書類の内容と原告のそれとを対照すれば明らかなように、右三店と原告とを比較すること自体誤っている。しかも、前述のとおり日計表はほとんど無視され、その基礎たる伝票は全く顧りみられず、また第二事業年度に次ぐ事業の実績、申告内容もなんら考慮されていない。
3 第一事業年度分の売上高申告額が四、一三一万七、六六七円となつているのは、二五万五、三四二円の計上もれがあつたためで、実際の売上高は、日計表により明らかなとおり、四、一五七万三、〇〇九円である。したがつて、他の項目については被告の更正処分額が正当であるとしても、同事業年度分の原告の所得金額は七八万三、六六四円となるにすぎない。
4 第二事業年度分に関する被告の抗弁2の(二)の(2) の<2>ないし(4) の各処分の適法性はすべて争う。
(一) 役員山中啓勝の報酬について
山中は、当時、使用人たる身分を取得し、監査役の地位を自動的に喪失して、取締役兼使用人であつたものであり、山中が監査役であつたことを前提とする被告の主張は失当である。そして、山中の使用人としての原告会社における勤務内容は、役員報酬年額一二万円を被告から認められた役員於田義和と比較にならぬ程大であり、少くとも年額六万円の報酬について損金算入が認容さるべきである。
(二) 役員伊藤菊枝の賞与について
菊枝は、原告会社の使用人を兼ねて事務を担当しており、昼夜を分たず勤務しているものであり、菊枝に支給した賞与は、実質は報酬であるのを賞与と誤記して支給したにすぎない。
のみならず、被告は旧法人税法施行規則第一〇条の三第六項第四号の解釈を誤つている。このことは現行法人税法第三五条第二項、同法施行令第七〇条、第七一条、第六九条、第七二条の規定上明白である。
(三) 株式会社ふくせんに対する認定利息について
同会社に貸付けた金員は無利息であるばかりでなく、同会社は倒産したものである。
(四) 固定資産売却損について
申告額七万五、八七二円は、原告がその所有の自動車(ブルーバード)を福岡日産自動車株式会社に売却した際の売却損である。
第三証拠<省略>
理由
一 当事者間に争いのない事実
(一) 原告の請求原因1ないし3の各事実(本件更正処分及び過少申告加算賦課決定処分並びに不服申立前置の各事実)
(二) 被告の抗弁1の事実(本件更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分の各内容)
(三) 被告が本件更正処分において、原告の第一、第二事業年度の売上高につき、売上原価を近隣三店の差益率で除すことにより推計算出していること
はいずれも当事者間に争いがない。
二 書証の成立について<省略>
三 そこで被告において、原告の第一、第二事業年度の売上高については推計算出の法によるのほかない事情にあつたものかどうか、すなわち原告の右事業年度について売上高の実額を算定しえなかつたものかどうかについて検計する。
(一) <証拠省略>によれば、原告は昭和四〇年二月二六日付をもって、第一事業年度以降青色申告書提出の承認を取消されていること及び元帳、補助簿等の原告備付の帳簿類には、別表(五)ないし(一〇)記載のとおり期末残高の記載に不一致があり、各事業年度の確定申告決算書の記載とも不一致の点があつたこと、また元帳の現金売上の記載と現金出納帳の現金売上の記載との間にも不一致の点があり、元帳の仕入高の記載と仕入帳の仕入高の記載との間にも不一致の点があつたことが認められ、右認定を覆えすに足る証拠はない。
(二) ところで、<証拠省略>によれば次の事実が認められ、これを覆えすに足る証拠はない。
原告の前記元帳補助簿等の帳簿類は大部分が日計表から転記された。
日計表は原告の日々の売上、仕入等の営業活動を記載した原始記録であつて、売上欄(昭和三八年一月三一日までは現金売上欄と掛売上欄があつたが、同年二月一日以降は一括して売上欄となつた。)には現金売上、掛売上、チケツト売上及び売上返品分(赤字で記載)並びに残金入金分、内金入金分、及び掛金入金分が記載され、現金収支欄には一般管理費、販売費、営業外収入、営業外費用、現金仕入、売上返金分等現金の収支を伴うものが記載され、現金残高欄には現金売上を含む現金収支の残高(合計額)が記載され、銀行預金欄には銀行預金の収支の状況が記載され、振替取引欄には仕入関係、売掛金関係、買掛金関係及び手形関係等の現金の収支を伴わないものが記載され、昭和三八年二月一日以降は、資産勘定欄にその日の貸借対照表、損益計算書も記載され、日々の原告の営業活動をもうら的に記録したものであつた。
原告は、その本店および支店において、紳士物、婦人物の繊維製品、雑貨類を販売することを業としていたので、日計表も紳士物、婦人物別に作成されたが、昭和三八年九月中旬には、同年二月に設立された、原告会社代表者を代表取締役とする株式会社ふくせんに紳士服の販売を譲つた形で紳士服の販売を中止し、以後はもつぱら婦入物と紳士小物(ネクタイ、シヤツ、ズボン等)を本店及び支店で販売するようになつたので、日計表も、それ以来本店、支店別に作成された。
原告はいわゆる洋服、洋品の小売業者であつて、店頭での現金販売を主力としていたが、店頭で商品が販売されると、当該商品を販売した者(以下販売担当者という。いわゆる営業係、店員である。)は、品物と代金とをレジスターの係員のところへ持参し、そこで販売担当者もしくはレジスターの係員は販売代金額と商品についている品名及び品名番号の記載された札並びに指定価格(定価)、売消番号の記載された正札に基づいて日計表の売上欄の該当欄に、その場で品名、品名番号、販売価格、指定価格、売消番号を記入し、更に閉店後等に仕入価格を売消台帳から調べ、利益差を出し、それぞれ右の日計表に記入した。売消台帳には売消番号と仕入価格が記載されており、正札に記載された売消番号と照合して販売したことが確認されると売消台帳の該当売消番号を抹消し、日計表にもその旨が記載され、かつ、売消担当者の押印がなされた。店頭での掛売り、チケツト売りについても同様の方法で記帳されたと推認できる。販売員が得意先の会社等で現金売り、掛売りをして来たときなどは、持ち帰つた正札の半きれにより同様の方法で記帳された。特売分については、販売担当者は販売した物の正札の半きれをまとめ、これにより、特売終了後等に、特売分として、前記紳士物、婦入物、本店、支店、その各日計表(以下通常の日計表という)とは別個の日計表が作成された。右特売分の売上げについては、大部分通常の日計表の売上欄に引用、転記されたが、一部転記されないものもあつた。外販分(出張販売分)については、外販の担当者が通常の店頭販売の場合と同様に記帳し、外販分として通常の日計表とは別個の日計表が作成された。
このようにして、その日に作成された日計表は、翌日、現金、正札の半きれ等と共に経理担当者のもとへまわされ、経理担当者は日計表の売上げの記載と現金及び正札の半きれ等とを照合、確認し、押印した。右照合、確認の際、金額等が合わない場合がたまにあつたが、正札の半きれ及びレシートと日計表とを検討して、不一致は是正された。また販売担当者の販売実績は同人の賞金に影響があつた。
以上の日計表は昭和三七年九月一日から昭和三九年八月三一日までの間、第一、第二事業年度ともに全営業日について完備している(昭和三七年九月六日から八日まで、同月一九日から二二日までの間の紳士物の日計表がない。しかし、右のうち同月七日、八日、二〇日の紳士物売上げ分については各同日分の婦人物日計表に記載されている。
残りの同月六日、一九日、二一日、二二日の紳士物売上げ分については、同月七日、八日、二〇日の紳士物の売上げ分が各同日の婦人物日計表の売上欄に、この合計額が同日計表の現金残高欄に、各記載されているのにこれらは各同日の婦人物日計表に何ら記載のないこと、に照らせば、当日、紳士物の売上げがなかつたものとうかがわれ、結局、昭和三七年九月六日から八日まで、同月一九日から二二日までの間の紳士物の売上げ分が、日計表上脱漏しているとは認められない。また昭和三八年二月二一日及び二二日の紳士物の日計表がなく、同月二三日の紳士物の日計表には売上げの記載がないが、これに本日改装完了との記載があることと、右と各同日の婦人物の日計表の現金残高欄に紳士物売上げとの合計額の記載のないことに照らすと、右の三日間については紳士物の売上げはなかつたものとうかがわれ、この三日間の紳士物売上げ分が日計表上脱漏したものとは認められない。また同年八月三一日の婦人物の日計表には売上げの記載がないが、同日計表に同年九月一日の売上げと扱う旨の記載があるから、右八月三一日の婦人物の売上げ分が日計表上脱漏したものとも認められない。また同年七月分および同年九月一七日から三〇日までの分の紳士物の、昭和三七年一〇月二日及び昭和三八年九月分の婦人物の、各日計表が現在見当らないが、前掲各証拠によれば、右期間中も各日計表は正規に作成されており、すくなくとも被告係官の調査時までは存在していたことがうかがわれ、これが脱漏していたものとは認められず、昭和三八年七月の紳士物の売上分については、同年同月分の婦人物の日計表の資産勘定記入欄に記載されたチケツト売上、掛売上、現金売上の各販売高の合計額から、同年同月分の婦人物の純販売高(右日計表の売上記入欄に記載されたチケツト売上、掛売上、現金売上の各販売高の合計額から、同記入欄に赤字で記載された返品分の合計額及び現金収支記入欄、振替取引記入欄に記載された控除項目たる返金分の合計額を各控除した金額)を控除することによつてその販売高を算出することができ、同年九月一七日から三〇日までの紳士物並びに昭和三七年一〇月二日分及び昭和三八年九月分の各婦人物、の各売上分については、それぞれ第一事業年度若しくは第二事業年度の元帳のチケツト売上、掛売上、現金売上各勘定口座の、昭和三八年九月一七日から三〇日までの紳士物の分、昭和三七年一〇月二日の婦人物の分、昭和三八年九月一日から三〇日までの婦人物の分、に各記載された売上の金額を合計する(控除項目たる返品、返金分は差引く)ことによつて、それぞれの各販売高を算出することができる。また昭和三九年三月一一日分の支店の日計表がないが、本店の同日分の日計表に支店は休みと記載されていることからすると、同日の支店の売上げが日計表上脱漏したものとも認められない。また日計表中に売消番号、販売担当者名等の記載が欠落しているものもあり、特に昭和三八年一月三一日までの日計表には、仕入価格の記載、売消担当者の押印が欠落している。しかしこれらの点の不備、欠落は、これら日計表により、原告の売上げの事実を把握するのに特に支障となる程のものではない。)。
以上のとおりの事実が認められるのであつて、原告の日計表について、その売上げの記載が断片的で不一致の点のあることを認めるに足る証拠はなく、これに虚偽記載や脱漏のあることを認めるに足る証拠もない。また、簿記上の技術的ミスの介入を考慮すれば、第二次資料たる前記元帳、補助簿等の期末残高に不一致があつてそれらの帳簿類が不備だと云いうるとしても、そのことから直ちに、第一次資料(原始資料)たる日計表も不備であつたと推認することはできない。
(三) <証拠省略>によれば、原告は被告係官の本件更正処分にかかる調査に際し、前記元帳、補助簿、日計表その他伝票類等すべての資料を提出し、被告係官の質問にも答え、その求めに応じて仕入先へ照会するなどして営業の実相を明らかにすることに協力したこと、しかしながら被告係官は、特に右日計表について十分な調査をすることなく、また右日計表についての疑義等につき原告会社の担当者に質問調査等することなく、前記元帳、補助簿等を簡単に調査したのみで、直ちに売上高を推計算出して、本件更正処分がなされたことが認められ、これを左右する証拠はない。
(四) 税務当局が更正処分をなす場合には、可能な限り所得の実額を把握することに努めることが、課税の正確性の点から見て必要である。その際、納税者が、所得の実額を算出する上で有効と考えられる資料を提出した時は、申告納税制度の趣旨からも、これをできるだけ尊重し、これを実額算出の資料として使用すべきものであつて、当該資料のささいな不備等を理由としてこれを無視し、安易に推計課税の方法によるべきものではない。
前記認定事実によれば、本件では原告の元帳、補助簿を直ちにそれのみで原告の売上高算出の資料とはし難いが、日計表については売上高算出の資料として十分使用しうるものであり、その多少の疑義のある点は、原告会社の担当者に質問調査するとか、元帳、補助簿等の他の資料を調査対照するなどの方法により十分補うことのできたはずのものである。
このように、本件は、売上高の実額を算定しえた場合であると認められるから、売上高を推計算出してなした本件更正処分は右の点において違法の瑕疵があり、被告の認定した第一、第二事業年度の売上高のうち、それぞれ別紙(一)(二)記載の方法で算出した売上高を超える部分は違法なものとして取消されるべきである。
四 仕入高の算出方法について。
(一) <証拠省略>によれば、被告は、本件更正処分において原告の仕入高を原告の全仕入先に照会した結果、回答があつて仕入高の判明した仕入先の仕入金額(第一事業年度は八店で金一、一〇一万二、七五六円、第二事業年度は一三店で金一、六七八万五、九二一円)と、それ以外の照会するも回答がなく仕入高の判明しなかつた仕入先に関しては原告の補助簿(仕入帳)に基づいて集計された仕入金額(第一事業年度は三一店で一、二七三万四、〇七〇円、第二事業年度は二三店で一、〇二万六、五四八円)との合計額(第一事業年度は二、三七四万六、八二六円、第二事業年度は二、六九一万二、四六九円)としたことが認められ、右認定を覆えすに足る証拠はない。
(二) ところで<証拠省略>によれば次の事実を認めることができ、これを覆えすに足る証拠はない。
元張の仕入勘定の期末残高と仕入帳の期末残高とは一致しない。また、日計表には振替取引欄、現金収支欄に仕入の記載があるが、昭和三七年九月一日から同年一二月三一日までの日計表には仕入の記載がなく、昭和三八年五月分、昭和三九年三月分等の日計表には、仕入の記載に脱漏が認められる。従つて右元帳、仕入帳、日計表等を直ちに、それのみで仕入高算出の基礎資料として採用しえない。
(三) 以上(一)、(二)の認定事実から考えると、被告が本件更正処分においてなした仕入高の算出法は相対的に合理的だといいうる。よつて本件更正処分のうち仕入高に関する被告の認定には違法の瑕疵はない。
五 第一事業年度の申告調整について。
原告は、被告抗弁2(二)(1) <2>記載の申告調整に関する被告の主張を明らかに争わないので自白したものとみなす。
六 第一事業年度の営業外費用、現金不足について。
<証拠省略>によれば、少くとも四、三五四円の現金不足が認められ、これに反する証拠はない。
そして、右現金不足は、営業外費用の雑損失として損金と解するを相当とするから、本件更正処分において、これが損金算入を否認した点は、違法として取消されるべきである。
七 第二事業年度の一般管理費、販売費について。
(一) 山中啓勝の役員報酬について。
第二事業年度において山中啓勝が監査役の地位にあつたと認むべき証拠はない。また、同人の役員報酬年額一二〇、〇〇〇円のうち九〇、〇〇〇円が過大であると認めるに足る証拠もない。(乙第七号証によれば、第二事業年度においては岩本澄一郎が監査役であつたことがうかがわれる。)原告代表者尋問の結果及び<証拠省略>によれば、右山中の役員報酬としては年額六万円が相当であると認められるから、同人の役員報酬を年額一二万円として、その全額につき損金算入をした原告の申告は、年額六万円が過大であり、損金算入が否認されるべきものである。したがつて、原告の右申告のうち年額九万円が過大であるとして損金算入を否認した被告の本件更正処分は、右六万円を超える部分について違法として取消されるべきである。
(二) 伊藤菊枝に対する賞与について。
<証拠省略>によれば、伊藤菊枝は原告代表者伊藤隆祥の妻であつて、取締役等の肩書を有していたが、販売の業務等において、他の女子従業員と同程度の労働に従事していたことが認められ、給料、賞与も他の使用人と同一の割合で同一の時期に支給されていたことが推認され、以上に反する証拠はない。右認定の事実によれば、同人は、使用人としての職務を有する役員と認められ、原告の他の使用人等に対する賞与の支給額に照らし<証拠省略>、本件申告にかかる同女の賞与六万五、〇〇〇円のうち右使用人としての職務に対応する賞与としては金三万円が相当であると認められる(なお、本件六万五、〇〇〇円の賞与が実質的に役員報酬であることを認めるに足る証拠はない。)。したがつて、右六万五、〇〇〇円の賞与のうち、三万五、〇〇〇円については利益分配の性質を有するが、その余の三万円については、伊藤菊枝が原告の使用人としての職務に従事したことに対する対価として、損金の性質を有するものと解するのが相当である。
もつとも旧法人税法施行規則(昭和二二年勅令第一一一号、昭和三四年政令第八六号により改正後のもの。以下同じ)第一〇条の三第六項第四号、第一〇条の四によれば、会社が同族会社であるか否かの判定の基礎となる株主若しくは社員又はこれらの者の同族関係者(以下同族関係者等という)である役員に対して支給される賞与は使用人賞与とは認められず、損金に算入しえない旨定めている。しかしながら同族関係者等である役員に対し賞与として支給されたものであつても、これらの者が実質的に法人の使用人を兼ね、使用人としての労働の対価として支給されたものである限り、旧法人税法(昭和二二年法律第二八号)第九条一項の損金たる性質を否定すべき理由はなく、租税法律主義の原則に照らし、現行法人税法第三五条の如く、法律により、これを損金に算入しないことと定めれば格別、旧法人税法第九条八項(昭和三四年法律第一九六号による改正後のもの)の、所得の計算に関し必要な事項は命令でこれを定める旨の委任命令に基づく右旧法人税法施行規則によつて、右の如く、実質上損金,にあたるものを損金に算入しないとすることは、委任の限度を逸脱し、違法無効であると解せざるを得ない。
従つて右三万円は右規則にかかわらず損金というべきであり、これが損金算入を否認した本件更正処分は、右三万円の限度で取消されるべきである。
八 第二事業年度の営業外利益、株式会社ふくせんに対する貸付金に対する認定利息について。<証拠省略>よれば、次の事実が認められ、これに反する証拠はない。
原告は同族会社であり、原告代表者は、原告会社の従業員等によつて昭和三八年二月に設立された株式会社ふくせんの株式を引受け、同会社の代表取締役をも兼任しているものであるが、原告は第二事業年度において株式会社ふくせんに期末残高四、七六九、一五一円にのぼる金員を無利息で貸付けたところ、同会社は、昭和四〇年八月一七日不渡手形を出して倒産し、原告は、昭和四〇年九月一日から昭和四一年八月三一日に至る事業年度において、右会社に対する貸付金残高四、七六九、一〇一円につき貸倒損失として損金処理をした。
右事実によれば、右無利息貸付金につき旧法人税法第三〇条の規定によつて、右行為又は計算を否認し、一定の利息の認定をすることは相当であると解すべきである。
その利率としては、<証拠省略>および弁論の全趣旨により、年一割とすることが相当と認められる。
よつて、金員四八九、三一四円を原告会社の利息として認定した被告の処分には違法の点はない。
九 第二事業年度の営業外費用、固定資産売却損について。
自動車売却損七五、八七二円が発生したという原告主張につき<証拠省略>はこれに沿うが、以下のような理由で直ちにこれらの証拠によつて右主張事実を認めることはできず、他に右事実を認めるに足る証拠はない。
すなわち、<証拠省略>によれば、原告主張にかかる自動車の売却価格が四五八、五八二円であることがうかがわれるのであるが、右自動軍の購入価格、売却に至るまでの減価については、これに沿う<証拠省略>をもつては未だ認めるに不十分であり、他にこれを認めるに足る証拠はない。従つて、売却損の算出根拠が明確でないので、単に、売却損のみを計上している<証拠省略>だけでは、直ちに原告の右主張を認めることはできない。
そうだとすると、本件固定資産売却損を認めることができないとした被告の処分に違法の点はない。
一〇 以上の点を除く他の諸項目については、申告額と更正拠分額は一致し、当事者間に争いはない。
一一 以上のとおりであつて、第一、第二事業年度の原告の所得額は、それぞれ別表(一)(二)記載の差引所得金額のとおりであるから、被告が原告に対し昭和四〇年二月二六日付をもつてなした第一、第二事業年度の各更正処分のうち、いずれも所得金額につき右認定した所得金額を超える部分、法人税額につき右認定した所得金額を所得金額として算定した税額を超える部分並びに各過少申告加算税賦課決定処分のうち右各税額の超過部分に相当する部分は、いずれも違法であるからこれを取消すべきであり、その余の請求は理由がなく失当であるからこれを棄却すべきものとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九二条但書を適用し、主文のとおり判決する。
(裁判官 井野三郎若林諒 妹尾圭策)
別表(一)
第一事業年度分
科目
認定額(算出方法)
備考
1 売上高
別紙(一)のとおり
2 売上原価
二八、二三六、九九九
(イ)+(ロ)-(ハ)
(イ)期首商品
六、五五二、七〇三
(ロ)仕入高
二三、七四六、八二七
(ハ)期末商品
二、〇六二、五三〇
3 一般管理費・販売費
一〇、三四四、〇三三
4 申告調整による加算
一四〇、〇〇〇
5 申告調整による減額
〇
6 営業外収益
八八六、七六〇
7 営業外費用
三、二三九、四二五
(イ)+(ロ)+(ハ)
(イ)減価償却費
一、六二六、〇〇九
(ロ)支払利息
一、六〇九、〇六二
(ハ)雑損失
四、三五四
現金不足分
8 差引所得金額
(1+4+6)-(2+3+5+7)
別表(二)
第二事業年度分
科目
認定額(算出方法)
備考
1 売上高
別紙(二)のとおり
2 売上原価
二三、九九〇、一九七
(イ)+(ロ)-(ハ)
(イ)期首商品
二、〇六二、五三〇
(ロ)仕入高
二六、九一二、四六九
(ハ)期末商品
四、九八四、八〇二
3 一般管理費・販売費
八、七八二、二六四
(イ)+(ロ)+(ハ)+(ニ)
(イ)給料手当
三、二九四、四六一
(ロ)賞与
二三一、五〇〇
(ハ)租税公課
一二二、〇八五
(ニ)広告宣伝費外一四科目
五、一三四、二一八
4 営業外収益
六七九、〇二九
(イ)+(ロ)+(ハ)
(イ)雑収入
一〇三、七五七
(ロ)受取利息
八五、九五八
(ハ)認定利息
四八九、三一四
5 営業外費用
三、七六〇、三七〇
(イ)+(ロ)+(ハ)+(ニ)+(ホ)
(イ)減価償却費
七七一、八六二
(ロ)賃借料
七二〇、〇〇〇
(ハ)支払利息
二、二六三、八六七
(ニ)雑損失
四、六四一
(ホ)売却損
〇
6 差引所得金額
(1+4)-(2+3+5)
別紙(一)
第一事業年度分の売上高の算出方法
昭和三七年九月一日から昭和三八年八月三一日までの間の営業日についての各日計表(通常日計表、特売分日計表、外販分日計表等すべて含む。)の売上記入欄に記載されたチケツト売上、掛売上、現金売上の各販売高の合計額から、同記入欄に赤字で記載された返品分の合計額及び現金収支記入欄、振替取引記入欄に記載された控除項目たる返金分の合計額を各控除した金額。
ただし
1 昭和三八年七月分紳士物の売上分については、同年同月分の婦入物の日計表の資産勘定記入欄に記載されたチケツト売上、掛売上、現金売上の各販売高の合計顔から、同年同月分の婦入物の純販売高(右本文の方法によつて算出)を控除した金額をもつてその販売高とする。
2 特売分日計表、外販分日計表に記載された売上高につき、通常の日計表の売上記入欄に引用記載された分については、右重複の限度で、本文の計算において売上合計額に算入しない。
3 昭和三七年一〇月二日婦人物の売上分については、第一事業年度の元帳のチケツト売上、掛売上、現金売上各勘定口座の昭和三七年一〇月二日分に記載された金額の合計額をもつてその販売高とする(但し、返品、返金という控除項目は本文と同様にして控除する。)
別紙(ニ)
第二事業年度分の売上高の算出方法
昭和三八年九月一日から昭和三九年八月三一日までの各営業日についての各日計表(通常日計表、特売分日計表外販分日計表等すべて含む。)の売上記入欄に記載されたチケツト売上、掛売上、現金売上の各販売高の合計額から、同記入欄に赤字で記載された返品分の合計額および現金収支記入欄、振替取引記入欄に記載された控除項目たる返金分の合計額を各控除した金額。
ただし、
1 昭和三八年九月一七日から三〇日までの紳士物及び九月一日から三〇日までの婦人物の売上分については、第二事業年度の元帳のチケツト売上、掛売上、現金売上各勘定口座の昭和三八年九月分に記載された各金額の合計額をもつてその販売高とする(但し、返品、返金という控除項目は本文と同様にして控除する。)。
2 特売分日計表、外販分日計表に記載された売上高につき、通常の日計表の売上記入欄に引用記載された分については、右重復の限度で、本文の計算において売上合計額に算入しない。
別表(三)ないし(一〇)<省略>